BULE HAWK

ダラダラとした管理人が運営するブログです。物書きやら日々の呟きやら稀に落書きやら何か好き勝手やってます。

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フォレスティア・ロンド 六十四話 決断と我侭




 ――部屋に入り、ドアを閉めるとほぼ同時に。
 フロートはレヴィスに引き寄せられてその腕の中にいた。
「……今日は随分と積極的ね?」
 照れたような笑みを浮かべながらも青年の背中へ手を回す。
 お互いにしばらくは何も言わずそのまま動かなかったが、やがてレヴィスの声が静かな部屋に響く。
「そりゃ……積極的にもなるさ。いきなり消えて、二日も音沙汰なしだった相手が戻って来たんだからな」
「……二日……そっか……」
 その言葉を聞き、改めてフロートは先程までいた場所が、この世界とは時間の流れが違っていたことを認識する。
 腕にこもる力が若干強まったのを感じながら、フロートはレヴィスの胸に顔を埋めた。
「ごめん、心配させちゃったね」
「別に謝らなくていい。……戻って来たんだ。それだけでいいよ」
 そう言った後、レヴィスは腕の力を緩め、身体を少しだけ離して少女の顔を真っ直ぐ見つめる。
「……聞いて欲しいことが色々あるんだ」
 静かに、それでいてどこか消え入りそうな小さな声に、フロートはじっとレヴィスを見て――それから、柔らかく微笑んで頷きを返した。


「……時の魔法で過去に……」
「……ああ」
 ベッドの縁に腰掛け、ミストゲートで消えた後のことを話し終えたレヴィスは視線を床に落としたまま短く言葉を返した。
 隣に座るフロートも同じように視線を落とし、口元に手を当てて何か考え込んでいたが、しばらくして顔をレヴィスの方へと向ける。
「レヴィス君は……どうしたいの?」
 ラピスやカルロからも問い掛けられた言葉。
 少女は自分を見ていることは判っているけれど、こちらから少女の方を見るのが少し怖くて躊躇われ、レヴィスは俯き口を閉じていた。
 黙ったまま何も言わない青年に対し、少女は困ったように小さく笑みを零す。
「聞いて欲しいって言ったけど……レヴィス君、本当はもうどうするか決めてるでしょ?」
「…………」
 その言葉にレヴィスは驚いて顔を上げ――……それから、申し訳なさそうに頷いた後、フロートの肩に頭を預けた。
 青年の頭を撫でながら、フロートは目を閉じる。

「……止めろって言わないんだな」
 小さく呟かれる言葉が耳に届き、フロートの目が少しだけ開く。
「そう言ったら止めるの?」
 同じような小さな声にレヴィスは僅かに言葉を詰まらせるが、すぐに口を開いた。
「……踏み止まるとは思う」
「それだと気持ちを無理矢理に押さえてるだけでしょ」
 フロートは再び目を閉じる。
「私はまだ家族を亡くしたことがないから、はっきり言うとレヴィス君の気持ちは判らない。でも、そのことでレヴィス君が苦しんでいたのを少しは知っているから、簡単に止めろとか言わないし言えないよ」
 そう言うとフロートは自身の頭をレヴィスの方へ寄せ、諦めにも似た表情を浮かべて笑う。

「……過去に戻って事故をなかったことにするって……どうやるつもり?」
「儀式自体を止めさせるんだと思うが……そこはクォルさんに聞かないとな」
「他人任せね」
 くすりと笑う声が横から聞こえ、レヴィスの顔は若干困ったようなものへ変わる。
 しかしその表情も次に呟かれた少女の言葉ですぐに違うものへと変わった。

「儀式を止めさせるって言うけど、それ……レヴィス君を国に引き渡すんじゃないの……?」

 ……肩に頭を預けているため表情は見えなかったが、言葉から感じるのは疑念と抑えられた憤りだ。
 レヴィスは姿勢を正して少女の方へ身体を向ける。
 真っ直ぐ視線を向けられたフロートは同じように視線を返していた。
「仮に儀式を潰しても、レヴィス君が里にいる限り国からの要求は無くならない。一番確実なのは……ロアドナにレヴィス君を引き渡すことでしょう?」
 紡がれる言葉に青年は何も返せない。
 ……過去に戻って事故を無かったことにすると聞いた時。真っ先に浮かんだのは儀式を行なう前に自らがロアドナに行くことだったから。
「事故で亡くなった皆を助けたいって思う気持ちは否定しないわ。でも……レヴィス君が犠牲になってそれを回避するつもりならそれは嫌。クォルさんの考えは判らないけど、儀式を止めるならそれ以外の方法でやって欲しいの」
「…………」
 静かに発せられた言葉に対し、やはりレヴィスは何も返せず。何も言わず少女の身体を引き寄せる。

 抱き寄せられた腕の中、フロートは呆れの混じったため息をついた。
「そこは了承して欲しいんだけど……何も言わないのね」
「……他に方法が浮かばない」
「それを考えてよ……」
 零すように呟かれた声は静かな部屋に響いて消える。

「……フロート」
「……何?」
 しばらく沈黙が続いた後、自身の名を呼ぶレヴィスにフロートは短く言葉を返す。
 レヴィスは気持ちを落ち着けるように深呼吸をした後、自分の考えを話すために口を開いた。
「どんな方法であれ、儀式を止めさせて事故を起こさなかった場合……里に残るにしても、ロアドナに行くにしても……多分、俺はアカデミーには入らない」
「……うん」
「そうしたら……ボッカはもちろん、お前と会うこともない。今ここでこうしていることだって、無かったことになって記憶には残らないと思う」
「……何それ」
 それを聞いたフロートはレヴィスの胸を押して身体を離し僅かに距離をとる。
「約束しても覚えてないから……約束すること自体が無意味だって言いたいの?」
 眉を潜め、厳しい表情を浮かべる少女に対し、青年は小さく首を横に振った。
「そうじゃない。無かったことになるとしても……守れない可能性のある約束を、俺はお前としたくないんだ」
「…………」
 真っ直ぐこちらを見ているレヴィスをフロートは厳しい表情のまま見ていたが、やがて小さく息を吐き、再び青年の胸に顔を埋める。

「そういう言い方はずるいよ……」
「……ごめん」
「……謝るのはもっとずるい」
「…………ごめん」
「…………」

 謝罪を重ねてくるレヴィスを内心で呆れつつ、その背中へ両手を回す。
「……いつ出発するの?」
「……夜明け前には行こうかと思ってる」
「そう……やっぱり、一緒に行くのは……」
 柔らかい手つきで頭を撫でてくる感触を心地よく思いながら、断られるであろう問いをあえて口にしてみる。
 レヴィスは少し困ったように眼下の少女を見て、申し訳なさそうな声でまた「ごめん」と言葉を返した。

 駄々をこねる子どもに言い聞かせるかのような口調。
 おそらくはもう……どう縋っても彼の決断を変えることは出来ないだろう。
 彼の気持ちを尊重すると口にしながら、本当はどこかで思い止まってくれるのを期待していた自分には呆れしか感じない。……結局、自分は自分のことしか考えていないのだ。

「……冗談よ」
 自嘲を含んだ、取り繕いの言葉を発しながら少女は腕を背中から首へと移動させた。
「出発するまでは……一緒にいてくれる?」
「……ああ」
「あと、それから……」
 恥ずかしそうに頬を染め、レヴィスの耳元に唇を寄せる。
 静かな部屋で彼にだけ聞こえるよう、囁いた小さな言葉に青年は一瞬目を見開いて――それから、若干顔を赤くしつつも、柔らかく笑って目を細めた。
「フロートが望むこと、ほとんど聞いてやれてないもんな……フロートがそれでいいなら……いいよ」
「……そういう義務感ならやっぱりいいわ」
「義務感じゃない」
 不服そうに顔をしかめたフロートに対し、レヴィスの腕にこもる力が少し強くなる。
「こっちの我儘ばかり聞いてもらってるんだ。流石に思ってても自分からそういうこと言えないだろ」
 その言葉に今度はフロートが目を見開き。呆れを含んだ大きなため息をついた。
「本当……変なところで小心者よね。レヴィス君……」
「……そうか?」
「そうよ」
 首を傾げて不思議そうな呟きをもらす青年に言葉を返したフロートだが、嬉しさを感じる半面、何だか泣きたくもなってきて、それを堪えるのに必死だった。


 ――……部屋の外。
 ドアをノックしようとした状態でラピスは動きを止めて固まっていた。
 やがて会話が途切れて静かになったところで上げていた手を下ろし、踵を返してその場から離れる。
 しばらく廊下を歩き、自室に戻って来たラピスは勢いよくドアを開けた。
 中にいたカルロとアリーシャから視線を向けられる中、ラピスはいつもの笑みを浮かべることなく、冷たい表情で女性だけを見ていた。
「……アリーシャ。聞きたいことがある」
「……何だよ」
 普段と違うラピスの様子に眉を潜めながらもアリーシャは言葉を返し――そして、続けて問いかけられた質問に、その目がスッと細められる。
「……お前……何を考えてる?」
「…………」
 一気に変わった空気の中、ラピスは何も言わず、ただ真っ直ぐアリーシャを見据えていた。



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